無限のファンタジアで生きるツバキ・ヒオリ(a78458)の呟きや日記色々
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日記を書き終え筆を置いた少女は、文机に腕を置き頬杖をつく。
からりと格子窓を開け、深夜に白くしんと響く月明かりを見つめ…
はたと、自分の名前を呼ぶ声に気付く。
縁側に出ると、夜の闇とうすら青い光が庭を照らす中、壮年の男性が一人佇んでいた。
名を思わず口にする。
「稜玄父様…」
縁側に並んで腰掛け、流れるのは永遠とも言えそうな沈黙。
かたや少女は居心地が悪そうな複雑な表情で、かたや父親は無言で酒をお猪口に注ぐ。
先に沈黙を破ったのは父親の、先に謝っておこう、の前置きの言葉。
はっと気付くように過去の情景が鮮明に浮かび、くらりとする意識。
それを遮るように続いた言葉は、少女の意識は思いがけず現実に引き戻された。
「あれからお前の様子が変わった事も気付かず…
出て行った事を後から奥に聞いて、こっぴどく叱られたわ」
………!?
冗談交じりなのか定かではないが、今まで見たことが無い穏やかな笑みを浮かべる背中。
しかし泳ぐ視線は過去を悔いている色。ゆっくりと大きな掌が少女の頭をくしゃりと撫でる。
「お前を苦しめていた、愚かな父を許せ…」
口を一文字にきゅっと結んだまま、包まれる温かさに気付かないうちに流れ出たのは
悲しみか、大粒の涙か。
まだまだ埋まるのは遠い隙間には、凍てついていた心の雪解け水が浸る。
優しくて嬉しい、ほんの小さな歩みとなる。
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