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昼下がり、居間にて少女は母と父とで茶の時間を愉しんでいた時、
からりと襖を開け胴着に身を包んだ、今様色の髪を一つに結んだ青年が
木刀を持ったまま脱力するように腰を据えた。
稽古お疲れ様と声をかける母に、青年は答える。
「訓練生の根性の無さには、情けない気持ちで一杯ですね」
新たに注がれた茶を飲み干すと溜息混じりに一息つき。
その様子を見かねてか、そうだ!と思いつくように少女は、
棗兄様、久しぶりに勝負を致しませんか?と提案する。
兄は木刀の一本を無言で渡すと、このままだと訛るところだった。と笑って答えた。
朱色の三つ編みの少女が訓練場を素早く駆ける。後ろを追うように続くのは兄。
後ろから回り込み、地を掠めさせながら切っ先を振り上げる。
木刀が空を切り、鍔迫り合いに火花を散らす。
間合いを一歩詰めなおすと、次々と打ち込み攻める兄の太刀筋。防ぐを優先にし、隙を伺う。
横に薙ぎ払われた筋に大きく後退すると、悠然とその場に流れるのは
力を極める者同志の沈黙…風にそよいだ一枚の葉が互いの間をすり抜ける。
刹那、互いが地を蹴った後に空に飛んだのは、青年の木刀。
飛んだ木刀を拾い上げ、一息。
「しばらく手合わせしなかった間に強くなったね、椿姫」
汗を軽く拭うと、少女は青年へと駆け寄りながら
太刀筋を見極めれず、苦肉の策で一手を取れたまでです…!と言葉を続ける。
そういう時は種明かしをしないようにね、と笑い声をあげて頭を撫でる。
そこへ届くのは母の呼び声。互いに顔を見合わせ、声をそろえて返事をしながら走り出す。
褒められた、ふわふわとした気持ちを抑えながら兄を追う。
初めて認められた気がした。
朝靄がかかる檜の湯に浸かり、体を芯から温めた少女は
果物牛乳を片手にふにゃりと朝風を全身で感じる。
全身を濡らした黄色い鳥ものんびりと肩で毛繕いしている。
隣には、こそりと湯船へ誘い出してくれた姉、キキョウ。
実は朝風呂ってしてみたかったのよね、と微笑みながら手を繋いで歩く姉妹二人。
下駄をからころ響かせて、積もり積もった話を弾ませて。
「そういえば…椿姫。出て行く前と少し雰囲気…変わった気がしたのだけれど?」
と替えた話題に、言葉より先に顔の色が応える。脳裏に浮かぶのは
茜の瞳を宿す、黒く艶やかに流れる髪と兎尾を持つ鷹。
あらあらと微笑みをこぼせば、図星を突いた事を少し楽しんでいる様子。
だけども…と続くは、ツキ兄ぃ限定でバレると騒ぐだろうから先に黙らしておきなさいね、との
妙に説得力のある言葉。兄様と何があったかは、今度聞いてみよう…
「…領主一族の護衛の任につき、強い武士の道を歩む事が灯織一族の栄誉…。
貴女はそれを成しそうとハラハラしたけど………良かった。」
包み込むように微笑み、門前に到着する前に朝陽を迎える。
姉は唐突に、先に着いた方の朝食準備を負けたほうがするのよ、と宣言すると
母屋へ続く道を駆け出した。負けません…!と続いて追う、揺れる三つ編み。
静かにはさせない、賑やかな朝のひと時。
日記を書き終え筆を置いた少女は、文机に腕を置き頬杖をつく。
からりと格子窓を開け、深夜に白くしんと響く月明かりを見つめ…
はたと、自分の名前を呼ぶ声に気付く。
縁側に出ると、夜の闇とうすら青い光が庭を照らす中、壮年の男性が一人佇んでいた。
名を思わず口にする。
「稜玄父様…」
縁側に並んで腰掛け、流れるのは永遠とも言えそうな沈黙。
かたや少女は居心地が悪そうな複雑な表情で、かたや父親は無言で酒をお猪口に注ぐ。
先に沈黙を破ったのは父親の、先に謝っておこう、の前置きの言葉。
はっと気付くように過去の情景が鮮明に浮かび、くらりとする意識。
それを遮るように続いた言葉は、少女の意識は思いがけず現実に引き戻された。
「あれからお前の様子が変わった事も気付かず…
出て行った事を後から奥に聞いて、こっぴどく叱られたわ」
………!?
冗談交じりなのか定かではないが、今まで見たことが無い穏やかな笑みを浮かべる背中。
しかし泳ぐ視線は過去を悔いている色。ゆっくりと大きな掌が少女の頭をくしゃりと撫でる。
「お前を苦しめていた、愚かな父を許せ…」
口を一文字にきゅっと結んだまま、包まれる温かさに気付かないうちに流れ出たのは
悲しみか、大粒の涙か。
まだまだ埋まるのは遠い隙間には、凍てついていた心の雪解け水が浸る。
優しくて嬉しい、ほんの小さな歩みとなる。
自分の部屋に戻ってくるのが日付を超えてなんて… orz
みんなして会話の中心が質問攻めなんてヒドイです…。
ランドアースで冒険者をしている話から始まり、召還獣の存在、色々…
語るに語りつくせない話に興味津々!で、先程やっとの思いで聞いた家のこと…。
とっても驚きましたが、兄様二人には家族が増えていて…赤ちゃんが…!
小さくて柔らかくて…!寝ている姿だけしか見なかったのですが、
すごく、可愛かったです…。
そういえば…父様だけ、まだ一回もお会いしていない…。
………やはり、会うのが嫌なのでしょうか…?
夕陽が一筋の針のように、鋭い光が視界に差し込む。
人力車に揺られながら手で遮ろうと、矢先、見慣れた門前が目の前に広がる。
到着する前に降り立ち、賃金を渡しお礼を伝える。
きゅっと、手を握りこむ力がこもり、足がなかなか進まない。緊張、しているのかな…。
立ち止まった場所で狼狽している少女は、ひたすらに行ったり来たりを繰り返す。
ふとその時、門前で打ち水をしていた女性に、鈴が鳴るような綺麗な声で呼ばれる。
「椿姫…ちゃん?」
驚嘆して恐る恐る振り返り、声が裏返る。
「義姉、様?」
見覚えのある女性…一番上の兄、ツキに嫁いできた女性だ。
しばしの再会を喜んだ後、ツキくん呼んでくる!と思い出すかのように小走りに去っていく。
勢いのある会話をまくし立てて早々と去る姿を見つめ、呆然と置きざりにされた彼女は
夫婦は似るものなのか…とくすっと笑った。
…さてと、と息をつき。
帰ってきたはいいがどう言って入ろうかと考え、壁にもたれ唸りだした。
(たぶん普通でいい、と思う…。…でも普通ってなんでしょうか…?)
瞬間、ばたーんと激しく扉を殴り開け、息を切らせて門前に現れたのは、
赤黒い髪を乱した着流しの男性。
少女の姿を確認するや否や走りだし、叫び声をあげて両手を広げこちらに突進してくる!
「椿姫ぃーーーーーっ!!!!!!」
避ける事も逃げることも(←)もままならず抱きつかれ、
おんおんと再会に嬉し泣きをする兄の姿に、じわりと視界に水分が溜まる。
声を出そうにも、自分に聞こえてくるのは掠れた空気。
気付かれないように拭うと、ほころんだ笑顔で、でもきっと確かな一言を。
……ただいま……、と。