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白い靄がたちこめる場所に立っていた。
朱色をまとい三つ編みを施した髪の、少女ー…。
少女はふと心に…現実じゃない場所だと悟った。そう思った瞬間、
景色が鮮明に過去の場所へと彼女を引き込んだ。
離れてからそんなに時間がたっていないはずなのに、懐かしくも
感じる故郷。実家の景色。
まだ日も昇りきらない夜明けの門前
少女と同じ、朱色をまとった髪を腰までまっすぐ伸ばした、おっとりした雰囲気の中に
芯の強さが垣間見える女性が声をかける。
「何度も確認するようだけど…本当に、行くのね?」
少女が応える。
「…ボクは、一族の恥と罵られたままここにいることが出来ませんっ…」
少女は苦い思いを胸の奥深くにしまっていたいはずなのに、
それでも克服しようと立ち上がった姿とは裏腹に、
しかし顔を紅潮させてうつむき、言葉が消えながらも必死に紡いだ。
「…その心意気、確かに受け取ったわ。でも、今の状態で
話しているようじゃ克服も何もあったものじゃないわね」
半ば呆れれながらも笑って小さな体を、ふと抱き寄せ
無理をしては駄目よ…、と心の揺れる思いを少女へ囁いた。
そうしてゆっくりと離れると、袖元から一つのお面を出し、少女の顔へそっと撫ぜ…
「これをつけて、人前に慣れて帰ってきなさい………椿姫」
狐と呼ばれる生き物を模したお面の下から、凛とした瞳を覗かせて
紐をしっかりと固く、固く結んだ。約束と共に。
その景色は名前を呼ばれたと同時に、鬱蒼とした彼女の意識を現実へと戻した。
天井を映した視界に、鮮やかな黄色が横切った。
つぶらな赤い瞳がこちらを覗きこむと、お面をこつこつとくちばしでつついた。
少女は布団から上半身を持ち上げると、ゆっくりと夢の跡を辿る。
縁側へ続く障子へ手を伸ばし、宵闇の中の光を追う。
お面が、ぱさり、と音を立てて落ちる。
「夢…?ここに来る前の…?」
続く言葉は胸の中に響き、再び眠気へと誘われ、もぞもぞと布団へ戻る。
彼女の指先には小さな赤い小箱が片時も離れず触れていた。
意識は、ゆっくりと遠のいた。